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2015年12月10日 (木)

「空手マスター2」と永遠にe-sportsに選ばれることのない格ゲーの思い出

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写真は師匠に「マッハで向かってくる車を飛び蹴りでやったらかっこいいからやってよ」といってやった主人公の図。ちなみに1回轢かれて病院送りになった

 イタリアのデベロッパーが作ったという「空手マスター2」を遊ぶをいろんな思いにとらわれてしまう。日本の80年代から90年代くらいのプロレス・格闘技のオーラがなぜヨーロッパにて伝わっているのか?とか、板垣恵介作品は思った以上に知られてるの?とか大元のネタ以上に戸惑うのは、もう続編が出ることがかなわない2つのシリーズを思い出させることだ。


 一つはあの作品だ。荒いピクセル(的)グラフィックスで描かれる、キャラクターの得も言われぬ空手のムーブの中で、異種格闘技戦をシミュレーションしていた「ファイヤープロレスリング」シリーズの記憶がちくちくと刺激される。あれが最後になったシリーズを発表したころ、まだ日本でPRIDEがブームになっていて、新日本プロレスがどん底になっているのところをPRIDEと同じ運営会社によるプロレスイベント・ハッスルが往年の業界の盟主を茶化すなんてことがあった時代だった。今ではビデオゲームがインスピレーションとするようなプロレス・格闘技の流れは無くなってしまった。

 そう、日本のプロレス・格闘技カルチャーを盛り上げるインスピレーション先へと長い間なっていたのはプロレスラー・アントニオ猪木の異種格闘技路線や、極真空手の大山倍達の行ってきたことだった。これは単純に「プロレスラーと空手家ケンカしたらどっち強いの?」とかいうレベルのほか、プロレスや空手といった決まりきった定型のジャンルを大幅に超えるいびつな出来事であったが、これが漫画やら小説、そしてビデオゲームに影響を与えていた。やっぱストリートファイターシリーズもキャラクター造形や世界観やらに絶対影響はあるわけだし。 

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 「餓狼伝」と言う作品はまさにそうだ。「陰陽師」を代表作に持つ夢枕獏の描いた80年代のプロレス・格闘技ブームに強い影響を受けた小説で、現実の格闘技ブームも反映しながら現在も執筆が続いている。様々なメディアミックスが生まれたし、SNKの「餓狼伝説」のタイトルは十中八九ここから取ってると見られている。

 この作品の漫画化は2度行われた。一度目は「事件屋稼業」「犬の生活」…というか、今なら「孤独のグルメ」で有名になっちゃった谷口ジローによって描かれ、2度目は格闘技漫画のトップたる「グラップラー刃牙」の板垣恵介によって描かれた。そして板垣版「餓狼伝」はさらにESPによってPS2で2度ゲーム化されたのだ。いっぽうSNKの「餓狼伝説」はボンボンで特異な漫画化をされ、独自の必殺技を放っていた。

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 オレが「空手マスター2」で思い出すのはそれだ。「空手マスター2」ではタイミングよく打撃がヒットすると「脳震盪」みたいに臓器が表示されて相手がグロッキーになる描写が入るんだけど、それが「餓狼伝fist or twist」の演出に酷似している。

 板垣恵介版のデザインを元にしたゲーム版は、単なる原作再現以上の歪なゲームメカニクスを持ったゲームだった。”敗北を認めるのは自らの心が折れたとき”というコンセプトで壮絶な闘いが展開される。腕の骨が折れようとも足の骨が折れようとも、さらに頭蓋骨が割れようと肉体がどんなに壊れようとも相手の心を折るまでは終わらない。


 メカニクスはSNKの「ワールドヒーローズ」のような体力ゲージのシーソーゲームの形式なんだが、リアル系の格闘ゲームが採用してる身体の各部位のダメージの大きさによって大きく揺れるあたりがすごく板垣恵介的というか…それにしても板垣恵介は本人もボクシングなどマジものの格闘技を経験している元自衛隊員なのにどうしてこんな過剰なファンタジックな漫画にするのか?そんなことはどうでもいい。

 「ファイプロ」「餓狼伝」だけじゃない。もう現れることがあるかわからない往年の格闘技のゲーム化の記憶が次々出てきては潰える。XINGの「K-1」シリーズ。「ボクサーズロード」。前田日明の団体のゲーム化「RINGS」。石井館長が脱税で逮捕されるまでコナミが作っていたころの「K-1」

 かつて格闘技が与えてくれたインスピレーションは極めてうさんくさく、同時に魅力的だった。それが漫画や小説だけじゃなく格ゲーにも少なくなく影響を与えていたと思う。やがて「世界最強の格闘技だの人類を決める」みたいな異種格闘技大会も一つの競技として整備されていったように、今ではe-sportsが拡大し、鮮烈さやセンセーショナルさよりも競技性が特に整備されていっただろう。

 やがてゲームプレイヤーは「空手マスター2」を遊んでいくうちに、キッチュで過剰なセンセーショナルな部分を超え、最適に競技を勝ち抜いていく方法を見つけ出していくだろう。明らかに誤読した空手修行を経て、試合の中で勝つための最適解を見つけ出していくだろう。そして、幻想もセンセーショナルさもない哀しい現実に導かれるだろう。

 ボクシングではジャブを撃って相手との距離を測り、出足を潰すと言うのは割と知られていることだと思う。足技の使える空手やキックボクシング、ムエタイでは、代わりに前蹴りやローキックを撃って自分が攻めやすい距離を作り、試合の主導権を握っていく。

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 「空手マスター2」でもそんな現実の戦法が有効なんだが、ところがある程度攻撃力を鍛えた状態だとなんと前蹴りを連発しているだけで「さあここからオレの展開だ」と思ったとたんになんと相手がKOされているのだ。

 「ま…前蹴りだけで全試合圧勝って」オレのなかでいやな思い出が蘇ってきたのだった。最強のマス大山、いやいや松尾象山にあたる相手が単なる前蹴り5発で終わっていくのは、カタルシスでもなんでもなく、ましてや強くなりすぎたものの虚しさですらない。何の幻想も無い戦略そのものの虚しさだし、単にゲームバランスが破綻してることへの虚しさである。だが最適な勝利の先方の前には、ロマンも幻想も多くの人には無意味にすぎない。「こいつのつかい道はまだあるぜーっ!」と叫び目つぶしをしたボンボン版のテリー・ボガードは正しかったのだ。
 

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相手も武器使ってるからチャラ

 初期の総合格闘技は年月を経て、いろんな格闘技を戦わせるセンセーショナルさは無くなっていった。代わりに競技性が増し、勝利への最適解を目指した結果の虚しさに似ている。ウニとプリンに醤油をかけた味のように。UFC(アメリカの最大の総合格闘技団体)ある時期はジャブを撃って相手の動きを止め続ける試合があったし、往年のK-1でも長らく長身の空手家・セームシュルトが恵まれたリーチから放たれる前蹴りやジャブによって、王者に君臨していたのを思い出す。代償にK-1の人気は落ちた。

 そもそも「なぜ今梶原一騎とか餓狼伝みたいなネタを?」と「空手マスター2」のキッチュが生まれた疑問の裏で、現実もまた「なぜ今?」という団体が生まれていた。かつて大晦日に「曙VSボブ・サップ」を企画した人間による「は~ラグビーをやる人間とボクシングをやる人間が対等に戦えるルールの格闘技はないかな~」とかいう感じで企画された「巌流島」という謎の異種格闘技戦を復活させていたのだった。しかし格闘技ネタに明るくない人向けに説明多めにしているとはいえ、書いていてオレも気が狂いそうだ。

 恐ろしい。「空手マスター2」は未来がどうなるのかを予言している。もうどう抵抗することもできない。ユングの提唱したシンクロニティ(共時性)というほかないではないか。世界中の死刑囚が一斉に脱獄してこの前Capcom Capで優勝したかずのこ選手とゲームで闘うようなそんなシンクロニティ(共時性)くらいあってもとかここまで書きながらもはやどうでもよくなりました(どうでもよくなりました)。

 ちなみに「空手マスター」の初代はないみたいです。あと今年の大晦日で「曙VSボブ・サップ」の再戦が行われます。

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