南米の聖剣伝説「Toren」の啓示
上田文人の「ICO」が見せたゲームデザインは未だ影響を与え続けている。一切のユーザーインターフェースを取り除くことでプレイヤーからルールや競技性の観点を省き、エモーショナルな体験に注力することだ。それは「ブラザーズ:二人の息子の物語」などなどに影響の後は見られる。
ブラジルの開発会社swordtalesのデビュー作である「toren」もまたそうしたデザインを引き継ぐ形の作品である。だが先に書いてしまうとキャラクターのモーションやアニメーションの質は決して高くはない。それは「ICO」スタイルの生命線でもあるゆえに、完成度に影を差す。
では後発の失敗作なのか?というとそうではない。「toren」が与える独自の印象とはエモーショナルなそれではない。イニシエーションと啓示に溢れた、感情を沸き立たせるような…とは違う異質な余韻を残す。それは南米に渡った「聖剣伝説」みたいで、主人公の少女は剣を取り成長する大樹を伝って塔を登っていく。
時の無い世界。高い塔の上でドラゴンが住んでいる。塔に幽閉された主人公ムーン・チャイルドは、塔を造り上げた魔術師の導かれドラゴンを討伐するため塔を登る。だが対峙し、打ちのめされた途端に石像と化してしまう。これで終わってしまったのか?と思われるが、ムーン・チャイルドはなんと塔の最下層にて赤子の姿で生まれ直す。そしてまた、塔を登りドラゴンに対峙し石になることを繰り返す。
原色の効いた透過光が多用された映像に加え、石像と化しまた新たに生まれ直すことを繰り返しながら塔に登りドラゴンを倒しに向かい続けるそれは「ブラザーズ」のような西欧のファンタジーの様相とは全く異なる。このフラットな時代に作品に反映されるお国柄・土地柄みたいな書き方は違うかもしれないけれど、そこにどうしてもホルヘ・ルイス・ボルヘスのような南米の幻想譚特有の感覚みたいだ。
登場するモチーフの数々はまるでそのままタロットカードの暗示みたいだ。塔。魔術師。悪魔。太陽。月…数々の象徴的なモチーフもそうなのだが、極めつけはイニシエーションのようなイベントの数々である。ムーン・チャイルドは塔の要所にある場所から夢の中に入る。そこで彼女は魔術師から説明を受け、紋章の形に沿って塩を撒いていく。
魔術的であり、象徴的で、そして数多くの啓示を超えていく。それは感情を喚起させる…というのとは趣の違う、奇妙な体験だ。ちょっとした神話をパロディにしたみたいな南米小説のような気配だ。
幾多も生まれ直し、自身の石像を超えムーン・チャイルドは最後に太陽の男に会う。そしてドラゴンに対峙し、打ち倒す。それから塔の最上階で観たものとは…それは数々の啓示を受け、いくつものイニシエーションを通過した果ての解脱みたいだ。ムーン・チャイルドは永遠に循環する時を終わりにする。
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コメント
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成長自立のお話と違って宗教や神話モチーフのお話って単純化な勧善懲悪や道徳的な内容じゃなくて不思議な印象をうけます
特に西洋以外の仏教やらインド神話とかだとウルトラcな発想に思えたり
インドネシアの零シリーズみたいなゲームとかどうなんでしょう
投稿: saboo | 2015年8月15日 (土) 08時59分
シナリオのベースに置くものが違うとそれだけ変わりますね
感情移入や喚起と全く別なのが面白かったですよ
インドネシアの「Drearout」ですよね?あれは未見です…
投稿: EAbase887 | 2015年8月15日 (土) 23時10分