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2014年7月 4日 (金)

Watch dogs セカンドインプレッション 監視と管理が逆にオープンワールドに命を付加する皮肉

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キスをするカップルがいる 個人情報にアクセスする 男は脳に障害 女は臓器提供者 二人はどう出会ったのか

 「GTA」シリーズをはじめ大抵の都市型オープンワールドを遊んでいる場合、街中を歩く人々というのは街の空気感やリアリティを感じさせるためのエキストラ程度でしかない感覚はある。ひどく言ってしまえば、車でいくら轢こうがパトカーが追ってくるリスクを生む程度の存在。

 ベゼスダのRPGのようなタイプならば人物一人一人にほぼ話しかけることが出来、一抹の人格を錯覚することが出来るためエキストラ感は薄まる。でもGTA型ではゲームデザイン上なかなかそうしたアプローチは悩んでる感はある。「GTAV」では3人の主人公に加え地図に載らない、半ば突発的に出くわしたように始まる多数のサブイベントを配置することで「この街では一人一人にドラマがありそれぞれの人生を生きている」と次第に錯覚出来るようにしていたと思う。

 「Watch Dogs」は現代の社会リスク回避のための監視と管理を推し進めることへの欺瞞や恐怖みたいなものがそのテーマであるが、皮肉なものでこれまでの都市オープンワールドが無残にしがちであった街に住むひとりひとりに何らかの人生があり、ドラマを持っていてプレイヤーはその瞬間に出会っているという感覚を得られるようになっている……ということはじめゲームデザイン面のセカンドインプレッション。


1・監視システムとハッキングが逆に、街を生きる人々それぞれに意味を与えている皮肉

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     どうしようもない恋人たち、ささやかな家庭、孤独死、自殺を思いとどまる瞬間のドラマ

 監視のほか個人情報から都市インフラまで管理するシステムを利用する「watch dogs」は、過去オープンワールドとの記憶と比較するにtOSにハックすることで得られる個人情報からスマホの通話の盗聴、メールの盗み読みや住宅の監視といったインモラルな行為を当然のように行える。

 ところがこうした一連の行為が、ほとんど街の空気感を補填するだけでいくら殺そうが、何とも思わなかった街を歩く人々それぞれにささやかなドラマの中生きているということを感じさせるようになっている。これはUBIモントリオールの意図したことかそうでないかはわからないけれど、監視システムというものとビデオゲームにおける都市オープンワールドの二つの面で皮肉めいている。GTAタイプのフォーマットを持ちながら、街中を歩くその感覚は真逆のように違う。

 比較的オープンなデザインで、街の人々それぞれにドラマがある、ということをよく感じさせるのはオレ個人の経験では日本のビデオゲームだ。「シェンムー」が、ゼルダの「ムジュラ」が見せたような街が舞台となり昼夜入れ替わる時間が流れ、人々はそのサイクルに合わせて生きており、個々人のプロファイルを集めることも可能で世界をより生きたものと感じさせるデザイン。ノベルゲームだがチュンソフトの「街」や「428」が見せたTIPS(脚注)を利用した街を生きる個々の人物の掘り下げなどを上手くやっていた。


 絶対これ違うと思うけど、振り返るとゲームではNPCのプロファイルまで集めて知っていくプライバシーにまで踏み込んでいっちゃうゲームって少なくなくて、監視と管理メカニクスは逆に転じてそうしたNPCの側面を描くことで世界を生きたものとして認識させてしまうというそうした演出に重なってしまう。他人の住居を覗く最悪の行為さえも、都市オープンワールドではほぼ無視されるミクロな生活圏の細密描写であり、都市オープンワールドがやれてなかった面の補完に感じる。そこを皮肉に感じる。

2・「LAノワール」でダメだったアドベンチャーのオープンワールド利用の、おおよその成功

 

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     探索の一つ、街に貼られたQRコードを監視カメラを利用して探す


 街の人間たちに意味を与え、そこから何らかの情報を引っ張ってくるというのは「LAノワール」の時に都市オープンワールドがアドベンチャーを指向する際に期待していたもののひとつだった。

 だがあの作品には街を歩き、事件を知っている可能性があるだろう性別・年齢・職業の人間に聞き込みを行いながら現場を絞っていくというような都市オープンワールドを生かした情報収集のデザインは無く、実質的な進行にオープンワールドがまるまる意味を為さなくなってしまうことは不満だった。


 「watch dogs」はメインストーリーの他に、各所で音声ログを集めることで発覚していくシカゴctOSの裏面というのを知ること出来る。このサブミッションはGTAにおける都市中にちらばっているハトだとか宇宙人の遺失物だとかを集めるそれに当てはまるんだけど、この辺には「アサシンクリード」で培われただろう「タカの目」のポイントを制覇することで街でインタラクトできるところが発見できる、というようなデザインをテーマに合わせてる。っていうかアサクリの方がタカの目でポイントわかるのは「遺伝子とシンクロしたから」って無茶な理由だったような…どうあれスマホ&ハッキングって表層なら意味は通るのでよし!


 GTA&アサクリのメカニクスでそこんところに新しさってのは大きくはない。しかしハッキングを利用した事件の全容の調査ということを生かしたデザインとなっており、この点もオープンワールドで退屈だったチャレンジを作品テーマに合わせることで意味を付加している。

 ハッキングによってクリアしたチャレンジの中でctOSを巡る陰謀や各サイドの思惑や、2003年の北アメリカ大停電を起こしたハッカーの背景などを知っていくことができるのである。満点じゃないがオープンワールドによるアドベンチャー(つうか物語や世界の探索)って意味では上手く解釈しなおしていると感じた。

3・ここのところのUBI作品の要素を結集したステルス&多様な解法のミッション・デザイン

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 都市オープンワールドは有り余る銃器と車両をぶち壊しながら暴れるカーチェイスという前陣速攻のミッションが多々な中で、遠距離からハッキングによる観察や爆破を利用して戦う「watch dogs」は相手のミスや強打による空振りを誘う柔軟なスタイルのアウトボクサーみたいなものだ。


 「Far Cry」シリーズによって培われた事前に遠距離から双眼鏡で敵の位置と数を把握し、レーダーに表示させて戦略を立てるデザイン、これはハッキングしたカメラがそれを担うようになる。そこから配電盤を爆破して敵の数を減らしていったり、ハッキングして機械から音を鳴らして相手を誘い出して動かすなどの戦略を取ることが出来る。この辺の罠に賭ける感覚はすごく簡易な「影牢」的な感覚もある。


 オレの実感というレベルなので説得力は高くないかも知れんが、基本的に体力はそう多くはなく速攻での撃ち合いよりもステルスで個別撃破というのが推奨されるデザインであると思う。車に乗っていても停止して隠れる、という動作も可能であったりするくらいだ(といってもあんま使いどころがないが) 


 都市オープンワールドが各種アクションゲームデザインの総合格闘技って部分もあるなら、「watch dogs」「スプリンターセル」「Far Cry」といったUBIのステルスや自由ない戦略を取れるIPの総合のようだ。上手くやれば敵を誰も殺すことなく目的にハッキングし、日常に紛れ消える。というやはりオレが求めていた日常風景の中で目的を完遂するというデザインをおおよそ完成させている。

余談・「GTAV」と比較してなにか面白いのは”インターネットがないこと”

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   こーいうSNS覗き見めぐりによってキャラクターの側面見れるってのは無かったり

 というわけでGTAタイプのオープンワールドど比較したが「watch dogs」はオープンワールドで世界観の認識的にもゲームデザイン的な戦略性の幅としても意外に盲点となっている裏を撃つ出来となっていると思う。


 だけど「GTAV」と比較してある意味最高に面白いのはここまで監視や管理・ハッキングや情報化ってテーマをメカニクスに生かすデザインをしていながら「GTAV」があんだけパロディにしながらも「世界をもう少し生きたものとして、細かく見せる」の作用を起こしていたインターネットのアクセスやSNSへのアクセスといった部分が無いのがなんだか可笑しい。(作中演出では「SNSを見てどこにいるかわかった」みたいなセリフは出るけどね)


 ctOSみたいな巨大なシステムがプライバシーまでも監視してるディストピアな一方、自主的に一定の範囲でのプライバシー公開して晒してる象徴たるSNSはじめインターネットによる情報描写が無いというの、「GTAV」がそこで他のキャラの描写補完をやら世界観補完担ってるだけに可笑しい。自分はそこんとこに「watch dogs」の盲点を感じるな。
 

 
 

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コメント

めちゃくちゃ面白そうだなー
インターネットが無いのも英語できない自分としては都合がいいかもw

そしてここまでお膳立てされると結末が気になる。

>sabooさん

GTAV日本版はSNSはじめ
主要キャラに関するサイトは日本語化されてるので読みやすいですよ
ただイギリスのインターネット発ポルノ小説のパロディ(日本における「恋空」みたいな)は
英訳化されておらず、細かい面白味まではフォローされてないところはありますが…

途中段階ですが、すでにデザインやゲームプレイングが洒脱であるので
結末がくそだったとしてもまあいいかなーと

GTAVはちゃんと邦訳されてたんですね。知らなかった汗
そういえばバイオショックインフィニットも付属のブラウザゲームがちゃんと邦訳されてましたね。

最近の洋ゲーは結構ちゃんと翻訳してくれる場合が多くて嬉しい限り。
EAのニードフォースピードはグーグル翻訳以下の文を日本語吹き替えしてて笑えたけど。

ウォッチドッグス6合目くらいまでプレイしました。
 
個人的にはちょいと不満です。
アサシンクリード1で感じた有料体験版的な未完成さを感じました(さすがにあそこまでではないけど)
世界とそこで出来ることまでは作ったけどストーリーはあえて抑え目かな。
2作目以降でさらにシステム強化とテーマや方向性の強調を行うのかなーと。
アサクリ基準で言えば、一作目でこれだけ面白いなら期待できるフランチャイズと言え・・ますかね。
面白いといえば面白いけど2回目はプレイしないなーという。
 
snsが無いという点ですが、これはエイデンが色々なプロファイルや部屋の覗きを行えるという点で、
あえてオミットしたのではないでしょうか。ゲームをプレイしていて感じたのは歩いているだけでさまざまな人のタイムラインがたれ流しで見えるのと同じような感覚でした
 
とりあえず・・・2作目に期待です。

>aaaさん

通常GTAタイプの都市オープンワールドと比較すると
ブラインドファイアや車に乗りながらの射撃が出来なくなっていることや
広範囲の移動の気持ちよさに必須な車の挙動がおかしいことなどの
批判点はやっぱ僕にもあります。

これは都市オープンワールドで基本アクションがステルス&トラップゆえに
ハッキングを利用することを前提としたデザインゆえに既存の動作を削られていると
思いますが、この辺が事前の期待を削ぐ面はあるかもしれないです。
「スプリンターセル」に「ギアーズオブウォー」を求めても仕方ないのですが、
この辺は事前にこうしたステルス貴重であるという
ゲームの触覚をプロモーションしてないせいかもしれません。

サブイベントの情報収集も
ctOSをハックするチャレンジの競技性としては同じことの繰り返し、
というのもネックかもしれません。
僕はここでハックの目的である世界の裏側の情報に触れるとか、
監視社会の一端に触れるというインタラクションが重要なので
かなり高く評価していますが、
皮膚感覚的に感じる競技性の幅の無さが評価を落とすというのも
否定できません。

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