今年の最高傑作の候補「Republiques」 手のひらの監視社会
「Republiques」はあらゆる方面で現在の状況の前線を突いている。それはスマートフォンという現在最前線のデバイスを介しての、プレイヤーとビデオゲームの関係。ポイント&クリックアドベンチャーの現代の最適解と言える操作。インタラクション。監視と規制というテーマ。ビデオゲームインダストリー的にはkickstarterによって50万ドルを調達しての、半ば挑戦的なテーマ。テレビドラマのようにエピソードごとに配信する、talltele gamesの「the walking dead」のような重量級のアドベンチャーのリリースの形。
どうあれ、手のひらから監視社会にインタラクションすることをテーマにした本作は「watch dogs」とダブっているところは多いのだが、そこは一種のシンクロニティってことで一体なぜ今情報端末によるハッキングによるメカニクス、監視をテーマとして作品が出ているのだろうか?
スマートフォンに見知らぬ人間からの着信が起こる。応答するとそこに少女が現れる。どうやら鬼気迫った状況に置かれているらしい。動揺した少女が一方的にこちらに語りかけた後、スマホの右上に閉じた瞳のアイコンが現れる。それをタッチすると画面が止まり色調が反転し、少女の持つスマートフォンから、監視カメラへとハッキングしていく。
スマートフォンによる監視カメラからドアの施錠からコンピュータにハッキングしていくゲームメカニクスによって、ホープと名乗る少女を監視と規制溢れる施設から脱出させることを助けることが基本的な目的となる。
脱出を助ける中でアクセスできるものも増えていく。それはメール、新聞、広告などなど…情報にハックすることでこの施設の目的は何なのか、少女ホープを消し去ろうと追いかける連中の背景には何があるのかなどを推察していく。
スマートフォンが持っている「タッチ」「フリック」「ズーム」といったインタラクトは監視カメラの動きとなり、少女ホープを導く。ゲームメカニクスでの効果もさることながら、スマートフォンによるハッキングによって個人から機密情報にアクセスしていく構図もまた現在の環境やら状況やらを作品にして反映してる形だ。ジャンルはステルス・サバイバル・ホラーにカテゴライズされるけれど、そのプレイ感覚はスマホやタブレットをいう端末を最大限にしたポイント&クリックアドベンチャーの解釈だ。
しかしその現在のテクノロジーの環境の反映としてのゲームの背景を全体主義社会・監視社会というとてつもなく閉塞的であり前世紀的な世界観に置いていることは皮肉めいてる。
それはなぜか?犯罪やテロリズムといった社会のリスクを消していくための監視や規制が進行している側面と、同時に世界にPCからスマートフォンはばら撒かれ、SNSからブロードキャストまで現在個人でほとんど自由にアクセス可能である現在をビデオゲームを接点として表現しているかのようだからだ。
オーウェル「1984年」が、小説のモデルとしていたソ連がぶっ壊れて20年以上経過しながらもなお現在も暗示を放ち続けるのは情報を統治する機関があり社会を管理するというあのヴィジョンは今なお形を変えて進行しているからである。うろ覚えながら誰が言ったか「共産主義社会は、現代社会への予告だった」というのもつくづく染み入る話だ。
「Republiques」は特に「1984年」的なヴィジョンに近く、ビッグブラザー的な最高権力者や管理と監視が行き届く施設という背景など、こうしたテーマではいささか見慣れた要素は数多い。だがしかし手に握りしめたスマートフォンというメディアの持つ非常に手軽で広いアクセスや情報収集が可能という特性から導き出されたドラマという意味では、繰り返すが皮肉を感じるわけだ。
作中には数多くの実在の書籍も登場し、その内容を作中の最高権力者が解説するという奇怪な意匠も施される。オレが確認したところではオーウェルの「動物農場」や、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」など本作がモデルとしてるような共産主義への皮肉やディストピアの作品に加えてバロウズの「裸のランチ」、ナボコフの「ロリータ」といった文学史的に問題作となった作品などが登場するのである。
同時に敵兵から盗むことの出来るアイテムや、ハッキングして集めた情報の中にはインデペンデントのゲームの数々が登場する。「broken age」にてKicstarterで過去最高の達成額を得たdouble fineの広告が登場したりと、これは同じくkickstarterで資金を集めた本作のスタンスと共鳴するゆえなのかな?と見えるし、カピバラゲームスの「スキタイのムスメ」などをはじめ同じくiosで評価を上げているインデペンデント作品などなど、おそらくスタンスに共感を覚えている作品へのエールが次々に現れる。
2011年に設立されたデベロッパーのCamouflaj LLCの代表ライアン・ペイトンはもともと「Halo4」や「メタルギアソリッド4」 にも関わってきたクリエイターだ。うがち過ぎになるけど現行のゲームインダストリーの大手では実現しにくいテーマであるゲームを作るために独立してクラウドファンディングで本作を製作したという構図、それは市場の問題やパブリッシャーの問題、規制の問題などなどによって身動きが取れない中を抵抗するという形であり、全体主義社会で監視と規制溢れる中を切り抜けようとする主人公という本作の構図にも重なる。こちらのインタビューで制作の前後が軽くまとめられている。
現在はエピソード2までが配信されており、この施設の内部の派閥や施設の外でおきている事態はどうなっているのか、ホープは脱出に向けてどう動くかということや、情報を集めるにつれてホープの周りの人間関係などがわかってくるようになっている。とりあえず2話までクリアした限り、エピソードが追加されるごとにゲームのルールやメカニックにも些細な追加や変更が加わる形になるようだ。
さてその中でもやや感心したのは、いささかネタバレになるので端的に書くと作中にスマホでハックした監視カメラで施設の最高権力者が登場するのである。ところがその権力者の顔にはモザイクがかかっておりその素顔を観ることはできない。ドラマを転がすための伏線だし大したことは無いと言えるのだけど、やはり繰り返すようにそこにスマホでのアドベンチャーという自由な情報アクセスやハックというメカニクスと相対する、監視や管理と権力という世界という皮肉なコンセプトがそこに凝縮されているように痛感するのだった。
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