ビデオゲームズ・チルウェイヴ
昨今のインディーズゲーム界隈に関しての言説には、そのままインディーズのロックバンドのDIY精神やら構図やらをアナロジジャイズすることが少なくない、っていうのに乗っかるわけじゃないが、いまやビデオゲームシーンのクリエイティビティ面への注目(決して現在のそれがインディーズゲームの本来の役割や立ち位置を見失いを意味してねえよという言及だって少なくない)が集まるなかで、去年から今年にかけて評価され、そして遊んだゲームの傾向の一つが、とある音楽ジャンル傾向に似通ってる感じを受けたのだった。
ビデオゲームにせよ音楽にせよ、20年から30年前のかつては製作の環境というのは限られていたのだが、現在はその制作環境というのもソフトやエンジンの整備により、自宅で個人での製作というのが可能になっていった。(なんかこの辺の経緯の記述がぼやっとしているのは細かい知識がないせいです)
そうした環境の変化なんかは例えばわかりやすいところではネットで初音ミクなどボーカロイドのブームがありその楽曲がニコニコ動画で投稿されまくっていることはじめ、エレクトロニカのシーンでその自宅での個人製作環境を「ベッドルーム・ミュージック」などと名付けられていることから見通すことが出来たり、個人製作のビデオゲームって話ならこれはマルチプラットフォームのゲームエンジン・Unityの拡大によってそれはゲーム制作の民主化だなんて見方も出てきているわけで、つまるところかつては限られた環境や限られた人々などによって製作されていたものがどんどん少数から個人でも出来るようになっていった、という現在があるということなのだ。
さてそんな音楽もゲームもほとんど個人でやっちゃえるというのがごろごろしている現在のシーンにて、非常にオレが琴線にかかるのは注目を浴びることになるアーティストの作品の傾向がやけに陰鬱でドリーミー、内向的で精神の奥へ沈み込むような世界観が少なくないことであり、その楽曲なりゲームメカニクスなりといった平たく言って作品の基礎構造以上にガワであるはずの音響なりグラフィックスの印象からリスナーやプレイヤーを引き摺り込んでいくムードを持っていることだ。
音楽の方面ではそうした現在の一派を「チルウェイヴ」と名付けており、近年のシーンでは大きく注目されている。オレにはそれがインディーズゲーム周辺の名を挙げた陰鬱な作品の傾向にやけに重なるのである・・・ということでここで一曲、まずはベタにチルウェイブの代表アーティストWashed Out ”Feel it all around”
チルウェイヴの持つ傾向と「Hotline Miami」や「Anodyne」と言ったインディーズゲームの一つの傾向は似通っている。それは何もネット発達による作品配信から何までほとんどを個人で実践できてしまう環境ということだけではなく、(ありていに言って)現在音楽やビデオゲームとして表現するまでに食ってきた、幼少から少年期のころの音楽やビデオゲーム原経験を再現するかのようなディスコサウンドやシンセサイザー音・8bit16bitの生々しさを抱えたグラフィックを表現する。
ところがそこに強烈なダブによる音響や多数のレイヤーを重ねたグラデーションが膨大に重なってくることにより、単なる80年代や90年代初頭のリバイバルというガジェットを越えて独特の酩酊感や夢想感が生まれるのだ。それはさしずめポップソングであるとか80年代のビデオゲームであるとかがそのまま経年変化が起き、遺跡が長年の時間によって雨ざらしになったり風にさらされ苔が生えるかのようになったかのような手触りを残す。っと2曲目・Neon indianでDeadbeat Summer。
オレのまあ大仰に言ってしまうと時代の(ほんの一つの)気分というか、現在の数多いポップカルチャーの枝葉の中の一つの気分というのをこの音楽シーンとビデオゲームシーンの一つが似通っている中に見かける。
それが発生しているのはおそらくはネット発達による膨大な過去へのアーカイヴィングからそれに伴う80年代~90年代周辺の原体験、それを元に個人でも音楽やビデオゲームの製作が可能となった環境、そして個人であるからこその商業の先端では跳ねられてしまうような精神や陰鬱さをテーマとした作品制作を可能にした点などなどが重なってのものだと思う。
過去の膨大な引用から音楽やゲームなどが生まれるっていう段階を越えて、さらにはベッドルームからでも作品を作り上げられるという個人性が高まることに伴い、夢想的で内面的なテーマへと突入していっているムードの作品が一つの流れとなっているかに見えるのである。
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