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2013年10月16日 (水)

「GTAV」の主人公マイケルをはじめ、やけにAAAタイトルで描かれるミッドライフ・クライシス

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 さてオレも「GTAV」を遊んでいるんだけど、ファーストインプレッションはほとんど過去シリーズと相違ない進行であるにも関わらずブラッシュアップされた仕様や演出により新しい体験となっている、という王者のシリーズならではの順当さで特に今の時代にそれはやはり希少だ。っていう、いまのところは公式メディアの言うような当たり障りのない感想ではあるけど。


 しかし中でも過去にない新しさというのを感じたのは主人公のひとり、マイケルの造形と背景だ。過去も未来を捨てているか生き延びるために死に物狂いで成り上がるかというこれまでの主人公たちと別に、すでに犯罪稼業からわけあって手を引き豪邸に住み、家庭を持っているという外面には社会的に上の位置におり成り上がっている位置だ。


 ここがCJともニコとも違っていて、通常若い主人公が世界や社会と拮抗して物事を理解していくビルドゥングス・ロマンは成り上がるまで(抽象化していえば何も知らなかったのが世界がどうなのかをわかるまで)が物語の王道であるんだけども、しかし人生は成り上がったその先も続くわけで、マイケルが異色なのはこれまでのGTAの主人公のゲームクリア後の一つの姿とも見える点だ。


 ではこの成り上がって以降の人間はどうなっているのかというと家族はガタガタであり、マイケル本人はその背景の中で身動きが取れず、現実に対応できず鬱屈するあまり精神科医にかかっているというあまりにドメスティックでナイーブな立場に置かれている。いわゆる典型的な「ミッドライフ・クライシス(中年の危機)」という状況にあるのだ。


 オレが驚くのはGTAでこんな背景の人間が主人公に!?ということだけではない。今年評判になったAAAタイトル「バイオショック・インフィニット」から「ラストオブアス」など振り返ればその主人公たちは純粋なビルドゥングスロマンではなく、こうしたミッドライフ・クライシスの問題をひとつの背景にしているように思えてならない。2013年のゲームは少年や青年の純粋な成長物語に高い資金と期間が咲かれているのではなく、なんと数十億-数百億円かけてオッサンの陥った現実の苦しみと悲しみの戦いばかりを描いているのである。


 いったいいつの間にゲーマーは中年のオッサンが陥った自身と現実の齟齬と再生にばかりインタラクションすることになったのだろうか?というわけでビデオゲームにて描かれる、中年期の主人公の考察。

 



◆さてミッドライフ・クライシスとは何か?




 分析心理ドットコムさんを見てもらえば話ははやいのだけど、簡単に引用すれば「子供から大人になる思春期に危機が訪れるのと同じように、人生の後半に到達するときにも危機が訪れ」、それは「40歳前後にあたるとも言われ、この変化の時は“40歳から70歳にかけてのある時点”で訪れる」ということだ。


 これをエンターテインメントの構図に当てはめなおせば、子供から大人にの思春期ってのはさっきのビルドゥングスロマンはじめ王道のモチーフであり、日本ならその時期を存分に発揮した舞台として学園ってのはもうありふれすぎて飽きるくらい当たり前に存在する。


 
 ミッドライフ・クライシスというのをざっと調べると、どうしても中年期に差し掛かった方の精神的な荒れが中心となるので一種の病気や症例のように書かれたブログなどを見るのだが、正しく捉えるならば思春期のように人生の過程のどこかで訪れる時期であり、そこには鈍い破たんや混乱があるのだが、それは「意義深い停滞と言え、」「またこの危機はきわめて「正常」なものであるとさえ言え」るために、これもまたエンターテインメントの中で描かれることが少なくないモチーフである。文学から映画までにそうした時期というのが表向き・裏向き問わず主になっているのは枚挙にいとまがない。


 とはいえビデオゲームのしかもAAAタイトルの界隈でこう中年男性が主人公として選ばれるのが直列し、しかも高いセールスをあげ全体的なビデオゲーム進歩の最前線にあるというのはやっぱり異質だ。こうした登場人物の背景も含めてビデオゲームインダストリーの進歩や成熟と見ていいのだろうか?

◆適当に描かれがちだった中年の直面する現実の描写

 どっかでアニメファンだったかが「もっとかっこいいオッサン出せ」だとかいう要望があるとかないとかで思春期学園のオーバードーズに抵抗するかのようにそんな意見があるとかないとか出るが、どうしても中年のおっちゃんというのはその視座からすれば「すでに物事を知ってて達者で経験と地位のあるキャラクター」なんてクリシェ止まりがほとんどでソリッドスネークぐらいが咀嚼できる限界値だったと思う。


 しかしGTAVのマイケルの中年の危機ぶりは典型的とはいえビデオゲーム界隈ではそうそう見られないみっともなさであり、麻薬とFPS付けのニートの息子や芸能界目指してるが山師に騙されてるとしか見えない娘、テニスコーチと不倫する妻そのそれぞれに対して無力だ。そういっても物事を知っていて経験も地位も持っているという「かっこいいとされるおっちゃん」であるんだが現実の主観からすればこんなもんなのかもわからない。



 「バイオショック・インフィニット」のブッカーにしてもミッドライフ・クライシス視点で観てるとやっぱりこれは悲惨で、アメリカ先住民戦争という過去から救済のためにパブテストの洗礼を受けるか受けないかという過去の記憶や社会的な背景に苛まれた失望ってのがある中で娘を失うという無力さに追い詰められてる。ここまでネタバレ避けてるギリギリ、いやアウトかもしれんがあの混乱した世界観や物語ってのもFPS視点のようにあれ全部一人の中年男性が直面した内面問題とその解決って意味で振り返ると 、エリザベスやカムストックとの関係などなど仕掛けられたひとつひとつのガジェットがやけに味わい深くなる。



◆それにしてもどうしてこうした時期がテーマに集中してるのか?

 かようにビデオゲームで見られるミッドライフ・クライシスとは思春期が内包してるクリエイティビティのようにまだ世界や社会の現実に対して未知であるところから自らの力をつけて成長し時に挫折しながら世界を理解していくのと逆に、すでに力を付けあるレベルにまで世界や社会といった現実を理解した段階でありながら、体力や意志の衰退から家族や社会的な立場といった身動きの取れなさのなかでもう一度自らと世界と現実を捉えな抑えねばならないという時期ゆえに、決して鮮やかで興奮する時期じゃない。



 にもかかわらず近年こうもミッドライフ・クライシスを中心にしているのはなぜなのか?一説には北米のビデオゲームにおける制作サイドからゲーマーに至る高齢化だとかあるらしく、その年代ではもう純粋なゲームメカニックだとかビルドゥングスロマンでは嵌らなくて、ずっとシリアスなのは自らの立ち位置だとかがんじがらめな現実に対してどう折り合いをつけていくことのため、それに感情移入できる物語やキャラクターの構築が主にテーマになるのではないか、とも見られるのではないか。ちょうど作り手も受け手もその時期に近いゆえではないか?と。


 また一方ではビデオゲームの表現できる範囲の進歩によって、そのリアリズムの変貌も無関係じゃねえのかなとも考えられ、もう単一な職業(話広げりゃゲームジャンルやメカニクス)に従事するだけでは現実的な没入感であるとか感情移入であるとかが足りないために、近年に現実感や世界観の描写の徹底が図られる過程のなかで、さらに一段踏み込んで現実の背景と拮抗しあうリアルな人物描写を求める中でこうしたテーマを描くことに繋がったのかもしれない。



 GTAシリーズなんてまさに完全に成り上がったシリーズでビデオゲーム全体の表現力をもけん引してきたわけで、その最新作が中年の危機を描いているってのはビデオゲームインダストリー全体の成熟と拡散の現在の環境からGTAシリーズ全体の成熟と停滞の予感までも含んでおり、自動車泥棒のフランクリンと明日を捨てたバイオレンスのトレバーの二人はこれまでのシリーズの持っているゲームメカニクスを凝縮させたキャラクターなのに対して、マイケルは近年のビデオゲームシーンまで含めてもっとも異質でありながらGTAVの象徴的な主人公と言えるんじゃないか?


 ま、パッケージビジネス&コンソールゲーム機自体もまさに中年の危機、的な存在意義を問われる時期だよなだなんてアナロジャイズさえしていくと話が止まらなくなるので、ここまでで。

 

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コメント

今作のマイケルは「ゴッドファーザー Part2」のマイケル・コルレオーネ、「ヒート」のニール・マッコーリー、「ザ・ソプラノズ」のトニー・ソプラノあたりがモチーフでしょうか。みんなおっさんですね。フランクリンは「ボーイズン・ザ・フッド」を思い出したり、複数キャラクターのシャッフルドラマは「パルプ・フィクション」を思い出したり。
そこに我らがトレバーさんも加わって混沌としていますが、アメリカ社会の縮図を狙ったというのは伝わってきます。サブイベントにもビデオゲームからエコノミクスに至るまで、皮肉めいた台詞が山盛りで楽しめる。それでいて作品からの乖離を感じさせないあたり、全体にわたってコンセプトを貫き通していると感心します。

先進国における(少子)高齢化は避けられない問題で、とくに日本は人口減と不況が重なってエンタメ全体で考える時期ですね。映画館に行ってもシニアが多いのは感じるところであります。ビデオゲームの場合、Female Protagonistの扱いが先に議論されそうですが、ディズニーピクサーのように非生物キャラクターで盛り上げるのも一手かと思ったり。

近作だとFar Cry 3がGTAV前史だと感じましたが、Far Cry 3の魅力はもちろん、退屈な移動中を語りで保たせるのはBorderlands、世界構築の緻密さはBioshockやDemons Souls、そしてUnchartedのようにリニアデザインかと錯覚するストーリー進行など、隙が無さすぎて恐ろしい。
キャラクターチェンジやシューティングもスムーズで、街中のインタラクションやアニメーションの小ネタを挙げたらキリがない・・・。

>にりんさ・・・おっと書き間違えた!ラマーさん

マイケルは「ソプラノズ」をモデルにしているといった記事を
チョークポイントあたりで見た記憶がありますが、
ロックスターゲームスはそういや元ネタの映画引用が露骨なくらい
そのまんまなことが少なくないのですが(笑)
三重四重に引用していることでシナリオやキャラ単体を眺める分には
妙味が出ていいですね。

前作と比べて、思い切りアメリカから離れた位置であるイギリス視点での
かなり類型的なアメリカパロディ視点というか、
自分はゲーム内のTVアニメがやってる共和党からネオリベラリズム茶化しで
笑ってしまったんですが、全体で徹底してゲームごとアメリカ西海岸のパロディに
過去になく徹しているあたりも最高ですね。
やっぱ書き出したら終わらなくなるので「GTAV」もクリア後にまた詳細レビューします。
しっかしトレバー人気がすげえですね。

こんにちは

はじめまして わたしは台湾からのゲームBLOG管理者のh9856です

このアーティクルはすごくおもしろいでしだ

突然ですが....

May I translate this article to Taiwanese and link to my blog ?

i'll notice original author and your website.

日本語が苦手です

よろしくおねがいします

>h9856 (Q~Dragon)さん

おお、はじめまして!台湾の方に読まれているとは思いもしませんでした・笑
少しそちらのサイトを見ましたが日本のゲームサイトの作りに似てますね。

翻訳してリンクするのは自由ですのでどうぞ!

Hi, h9856 (Q~Dragon).

Thank you reading my blog ! I didn't think being read.to person from Taiwan. lol
I've seen your website a little, It's design like Japaneze game infometion site. Interesting.

This entry is free to translate and link. Go ahead! :)

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