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2013年8月 7日 (水)

狂気と悪意と分裂の最終ファンタジー「Killer is dead」 キラーイズデッド ~究明考察編~

Adb

キラーイズデッド・レビュー前編~探求感想編~はこちらから


 「killer7」以降須田剛一はhand in killer7にて「アクションゲームで書けるシナリオ量の限界を知りました」と発言しており、ただでさえプレイヤーには事実だけを提示しその先の真実は自らで探させるという書き方しているのに、さらに情報が削られることで膨大な余白が生まれ余計混乱させられることになっている。

 特に本作の物語は世界観やコンセプトが重要ながら、情報が少なく難解極まることになっている。しかしこの物語の実態とはなんだったのか?を須田剛一インタビューなどから紐解くキラーイズデッドのレビュー後編・ストーリー真相考察編内容に徹底的に触れるためクリア後推奨エントリ。世界観補完のためのテキスト。




この月と地球を巡る世界観は?そして物語には何があったのか?




 さて本作はビックリするほどテキスト量が少ないために、ぶっちゃけ何の前情報も得ずに遊んでしまったならばそもそものモンド・ザッパが記憶喪失であるということすら中盤に入るころにならなければまるでわからないし、説明書にも処刑事務所と任務のあらまししか書いていないため全くどういう人間関係や世界観なのか把握できないと思う。



 ところがこうした世界観は実は4gamerの須田剛一インタビューによって大きく語られており、ここでブライアン処刑事務所がどの国の管轄にあることなのかから中盤のザッパの夢に浮かぶ月・地球・太陽のイメージから終盤にディヴィットより語られた唐突とも言えるそれぞれの星と登場人物との関係などは一体何だったのかが分かる。

4Gamer:
 
 今回のシナリオだと,月の裏側からワイヤーズという敵が地球にやってきているという設定になっていますが,ワイヤーズって一体何者なんですか?

須田氏:
 月の裏側から来てる連中の総称がワイヤーズなんですね。
 彼らは「ダークマター」と呼ばれる「悪意の粒子」を原動力としているんです。

4Gamer:
 なぜ,そいつらは地球にやってくるんでしょう?

須田氏:
 それも遊んでみたうえで,皆さんに考えてほしいですね(笑)。

 実はシナリオの初稿では,太陽争奪戦が行われているという構想でした。太陽,地球,月という三つがキーワードになった,慈悲なき戦いということで。で,キャラクターはそれぞれの星を背負っている,いわば代理戦争のようなイメージです。


 まあ,事情により太陽の設定は省いて,月と地球だけにして,ほかの要素も少しそぎ落としてはいるんですが,そういう代理戦争のようなイメージ自体は,ゲームに落とし込みました。

 以上のインタビューと最終話で明かされる月・地球・太陽の関係を照らし合わせるに、どうやらザッパ・ミカ・デイヴィットまたはムーンリバーがそれぞれの星を代表するキャラクターということではないか。各陣営の対立構図を簡単にまとめるなら、デイヴィットは狂気と悪意に満ちた月の裏側から地球に悪意をバラまき、様々な人間や物体をワイヤーズへと変節させ、悪意を伝染させ地球を手にしようとしているのに対抗するため、アメリカ政府の下部組織であるザッパの処刑事務所陣営が立ち向かうという構図で、かつて月の支配者にいたムーンリバーが真意が何かはわからないながらそれを眺めているという関係だ。


 それに初稿の設定を加えるならば太陽の代表がミカであり、太陽争奪戦の中でザッパとデイヴィットまたはムーンリバーはそれを巡る対立に集約されたのではないだろうか?「太陽が欲しければミカを殺すんだな」のセリフの唐突さの理由は初期設定にあった!


 
そういやヴィヴィアンが第6話のエレベーターの中で「月が太陽を隠してしまうことをなんて言うか知ってる?」となぜ小学生のようなことをいきなり聞いてくるのだろうか?というのも、そんな初稿の設定から考えればこれ伏線だったんじゃないか?・・・月のデイヴィット陣営が太陽のミカを奪うかどうかしているのではという暗喩ではないか?そう考えるとあの発言の意味も通るような・・・ところで太陽を手にすることでどんな見返りがというのは情報が今のところ無くもはや知る余地無し!まあテーマからすればそれを奪うことで狂気や悪意で世界を満たそうとするのを止められるかどうかの拮抗といったところだと思う。




物語と人物の事実関係の確認・ディヴィットは何者なのか?


 ディヴィットは何者だったのか?ムーン・リバーは?夢の中で過去の記憶を見せる女ドリーは?そして、ザッパは。これらは時系列をまとめ上げれば一体何が起きていたのかは見えるかもしれない。


 まず第一話でトキオを処刑に向かった、左手がマッセルバックではない男は誰だったのか?エピソードのオープニングでは「少女誘拐事件」を一面にした新聞が道に捨てられており、そこではミカが映された写真が載る。トキオに誘拐されていたのは彼女だったのだ。


 トキオを処刑しミカに出会った男は誰だったのかは後半に発覚する。それはなんとディヴィットなのだ。どうやら過去に処刑人として活動していたようでありその根拠としてブライアン所長のヘルニアはどうなのかとザッパに聞いて来たり、処刑事務所にはいい思い出が無いとのことを呟くシーンがある。

Kako

         満月のような眼のディヴィットと紺のブレザーでより平沢唯化するミカ

 一体何がストレスで政府関係の高給取りから脱サラしてレイザーラモンHGや小島よしお系一発屋芸人へ向かったのだろうか?ここでもう一度4gamer須田インタビューを引用するとこう語られている。

4Gamer:
 ところで,月と同じように印象的な使われ方をしているフレーズに「闇」というものがありました。このゲームにおける闇とは,何を象徴したものなんでしょうか。

 

須田氏:
 一言で表現するならば,人間の悪意そのものですね。
 例えば心霊現象や悪魔的なものという形で,悪意を描いた作品はこれまでにもあったと思うんです。でも,そうじゃない,新しい形で悪意を描きたかったんですね。
 実は月を支配するデイヴィッドは,その悪意に飲まれてしまった人間なんです。

 

4Gamer:
 Episode 2「KILLER IS DEAD」に登場するデーモンは,体がワイヤーズ化しつつある元処刑人という設定ですが,それはつまり,処刑を繰り返すことによって,人の悪意を吸いすぎたということなんでしょうか。

 

須田氏:
 そういうことになりますね。

 第二話、処刑事務所に所属し仕事に慣れ始めたモンドが処刑する対象に選ばれたのはかつて処刑人だったデーモンだった。なぜ処刑対象になったのか?それはどうやら国家に反逆する何らかの行動を起こしてしまった模様であり、何故そうしてしまったのかは嫌でも死に関わるこの仕事に関わる中で、ワイヤーズへと変貌しつつあることに象徴されるように他人の狂気や悪意に触れ続けたことで限界が来てしまったせいだろう。


 デーモンの処刑人としての末路を演繹するに、おそらくはディヴィッドもまた決して短くは無いだろう狂気と悪意に恒常的に触れ続ける処刑人のキャリアの中で自らもそれに飲まれていったのだろう。トキオが処刑される直前、ディヴィットに向かって発言した謎の言葉は狂気と悪意に満ちてしまったそれを示していたのだ。


 第一話「月を選んだ男」として狂気と悪意の象徴である月へと向かい、第四話「月を奪った男」としてムーンリバーより月の支配の館を奪う。そして第10話のトミーが暴走列車へと変貌させられたように地球へと闇をばら撒きワイヤーズへと変貌させていくのである。

処刑対象ワイヤーズとは何者だったのか?




 スラッシュアクションでのテンプレート気味なザコキャラであり、月の裏側より狂気と悪意の感情をメタファーとした粒子・ダークマターを原動力として混乱と悪意をばら撒きに来る敵ワイヤーズ。彼らに対抗するために地球の処刑人が迎え撃つというのが単純な構図だ。


 その月と地球の人知れず行われる代理戦争といった構図はH・Gウェルズの古典「月世界最初の人間」 のようだし、「killer7」のスミス同盟vsヘヴンスマイルに暗示して見せたその先の国家vsテロリズムといった現代戦争の構図をさらに単純化し、これまでのGHMのテーマにあった「狂気と悪意の象徴とそれに対抗するもの」という根源的な構図を悪意の粒子ダークマターで動く敵を倒し、左手にそれを吸収して狂気的な攻撃を発するザッパというスラッシュアクションのジャンルのレベルに記号化・戯画化されたものと言える。

Firstmeninthemoon1919

      月と地球の人類の対立のファンタジー、ウェルズ「月世界最初の人類」も発想にあるだろうか?


  しかしワイヤーズのその元になっているのはどうやら狂気と悪意に浸された人間ではないか?ということが、それに触れ続けた元処刑人であるデーモンがワイヤーズ化し始めていることや、第6話の音楽家ヴィクターがオープニングアニメで顔がグニャグニャとねじ曲がったり、パンフレットでの顔写真から明らかに変貌してしまった身なりなどから示唆される。


 そもそものザッパもまた左半身がマッセルバックを中心にワイヤーズと化してきており、吸い上げた狂気と悪意によりアドレナリンバーストを使う時には覚醒したシーンではザッパの視界を意味する左画面が狂気を象徴する月に覆われ、左半身をワイヤーズのように変貌させ狂気と悪意に浸した力で一撃で斬り捨てる。

Zappa
        悪意に触れ過ぎていくことで、左半身からワイヤーズ化が進む

 物語後半ではどうやら狂気と悪意の闘いを経て行くことで狂気に陥りかけているのではないかということが悪夢の中で出会うディヴィットにより示唆され、左半身を覚醒させて咆哮し目覚める。ザッパが処刑してきたワイヤーズたちの狂気と悪意のダークマターが星中に満ちた月でデイヴィットとの最終決戦に突入した時には、全身にそれが浸されることにより完全にワイヤーズの姿へと変貌して迎え撃つのである。

 

ムーンリバーと夢の女ドリー、月の裏側の人間の目論見とは?

 

 デイヴィットに支配者の館を奪われ、月の裏側より処刑の依頼に来る「ティファニーで朝食を」の頃のオードリー・ヘップバーンをモデルにし、この映画のテーマ曲の名を持つ女性ムーンリバー。ザッパの嘘か誠かの記憶にも現れる彼女は何者なのだろうか?


 第4話でディヴィッドを打ち損じてしまった結果ザッパのボートハウスで共に暮らすようになるのだが、第5話のザッパの夢の中に映る少年時代の記憶の中で一緒に遊んでいるという記憶が蘇る。ところが、ムーンリバーが溺れかけているのを助けようとする記憶の中で、ザッパは手を差し伸べ助けようとするが、手を掴んできたのは赤いフードに身を包んだアイマスクの女ドリーだった。


 少女時代のムーンリバーが水の中に沈み、ザッパの記憶を巡り様々な言葉を投げかけるドリーが現れた水面には真っ赤に染まった月が映される。これは最終話でザッパとディヴィットの決戦に決着がついた後の、狂気と悪意に染め上げられた禍々しい月の色で、それを見上げているムーンリバーという結末を予告していたかに見えるシーンだ。


 悪夢から目を覚ましたザッパはそばにいたムーンリバーに子供の頃出会ったことがあったのかと尋ねるのだが、しかしこの前会ったばかりだと返答する。 だがそれは嘘なのかもしれない。ザッパ初仕事である第3話にてアリスの生首を依頼人である画家ロバートに渡した時に、ロバートが「月の話に騙されてはいけません」と不気味に呟いたことが思い出される。

Moonriver

      ザッパの夢の中で暗示させた狂気に染まった赤い月が、現実になる

 つまり悪夢の女ドリーとはムーンリバーが無意識下に侵入した形なのではないか?と想像される。実際悪夢から目覚めたザッパのそばには彼女が現れたり、ボートハウスで共に暮らすことになったミカにもドリーの幻影は夢に現れ、ブライアンを殺すように差し向けもする。なんにせよその目的は処刑人サイドにダメージを与える月のサイドの遠隔的な攻撃であると見える。

 

 


 ザッパとディヴィットとの決着が付いたのちに、ムーンリバーが写真を差しだしこの人間を処刑してほしいと頼み、写真を見たヴィヴィアンが驚いたところで物語は終わる。写真の中身は明かされないのだが、おおよその流れからしてそこにザッパが映されていることは想像には難くない。

 

 


そしてモンド・ザッパの記憶とは・・・


 ドリーが悪夢の中で見せてきた、ザッパのあまりにも陰惨な記憶のため忘れようとしていた記憶の光景。それは少年時代のザッパとムーンリバー、ユニコーンのタケルと遊んでいた中で、水の中へ溺れるムーンリバーの光景。その次には母親が家事を行っているなかで半熟卵を食べている時に不穏なブザーが鳴り響く。そこから現れたのはディヴィットであり、母親を切り殺しザッパの左腕を切り落とす。寸でのところでユニコーンに助けられ、ワープして逃げのびた先は処刑事務所であり、そこで初めてザッパはブライアンと出会った光景。

 第11話で明かされる唐突かつ凶悪な真相のひとつにドリーを処刑する間際に告げられる。ディヴィットは実の兄弟と言う記憶、さらに目を覚ましたザッパに告げられるのはなんと「ディヴィットに洗脳されていた」という凄まじい事実である。それで第2話の始めと終わりに囁かれた「目を覚ませ、ゆっくり目を開けるんだ」「さあ殺しの時間だ」とザッパを誘うあの声はディヴィットの声が導いていたのではないか?と見えるのである。

12

 記憶を取り戻し、決着を付けに向かうザッパ。そこで現れたディヴィットとの会話の中でさらなる混乱をもたらす発言が出てくる。ディヴィットの「所長のヘルニアはどうだ?」の質問に対して、なんと「機械化して治った」と返すのだ。


 ユニコーンが処刑事務所に連れてきた時には既にブライアンは機械化している。第7話の最後で浜田山と機械化する以前のブライアンが写真におさまっているが、その頃から出会っていたというのだろうか。記憶は本当なのかどうか。「所長に利用されているだけだ」とかつて処刑人だったディヴィットが言う。モンドに義手を付けたのは誰か。


 どこまでの記憶を失っていたのか。時系列では採用通知を受け本格的に処刑人としてスタートするのは第3話からであり、それから以前の義手を付ける以前からは本当は何があったのか。


 
以上の点から線として浮かぶ陣営の各思惑


 各々が腹の中が見えず、みんな何を考えているかは分からない。それぞれの最終的な目的はなんなのだろうか?以上の事実関係・自分の見解を整理するとこうだ。かつて処刑人のディヴィットは狂気や悪意の果てに月へ向かい、ムーンリバーの館を奪う。地球へとダークマタ―をばら撒きワイヤーズ化させた対象を、洗脳したザッパに処刑させ、さらなる悪意を月と、ザッパ自身に満ちさせる。その目的にはデイヴィット自身は地球を奪いに向かい、月の支配を弟のザッパに継がせるためではないかという風に映る。「血を貯めろ」の意味とはそのあたりの誘導を示した言葉ではないか。


 そうするとムーンリバー=ドリーによって記憶を揺さぶった目的は自身の月の支配を邪魔しようとするディヴィット、そしてザッパの共倒れによる自身の月復帰と、地球への支配のためなのか。もしかしたらディヴィットとムーンリバーは裏では地球の支配という目的あたりで一時的に共謀しているのかも知れない。


 国家に忠実であるブライアンの立ち位置とは?4gamerインタビュー内で「月はそもそもどこかの国家の領土だったんでしょうか? あるいは完全に独立した土地だったんでしょうか?」という質問に対し「僕の解釈は,アメリカのものですね」と答えており、これに乗るならばザッパの記憶喪失もかつて事務所の処刑人だったディヴィットが処刑対象として依頼に来たのに何も言わないのも政府のサイドが月を確保するためか?と言う風にも映る。


 月と地球(そして初期設定では太陽も含み)の支配や利権を巡り、どうやら各々の思惑があるとしか思えないのだが、プレイヤーが操作する主人公ザッパさえ含めて誰もそれをプレイヤーに明かしはしない。最終的にはザッパはディヴィットとの決着を付けるのだが、その後には月に満ちた狂気と悪意が義手から流れ込んで来る。ここまでがディヴィットの思惑通りなのか。「チェスは先制が有利で後攻は引き分けに持っていければ上出来」とは、何もかもディヴィットに先導され、悪意に満ちた月の支配をに引き込む目的を暗示したものだったのか。


 ザッパの赤い瞳に合わせるかのように、闇に包まれた月は赤く染まり物語は終わる。それが最終話「月に選ばれた男」というタイトルの意味だったのか。



 

最終的には処刑という狂気・悪意に触れ続けるという、須田剛一作品の通低音にあるサイコロジカルなストーリー

 長々と語ったが、インタビューからゲームで語られる事実関係をまとめてみたところで全てが整合するようにはならないように意図的に認識がブラされる語り方をしているのは相変わらずであり、点と線からは確かな絵がはっきりとは浮かばない。それどころか適当に書いて荒いまま放置しているだけみたいな部分もある気もする。



 もしかしたらザッパとディヴィットは同一人物なのかもしれない。スラッシュアクションにおいては「デビルメイクライ3」のダンテとバージルの関係を持ち出すまでも無く、兄弟や同系のライバルというのは主人公自らの影や闇との対決と言う暗喩だ。それをデヴィット・リンチの映画のように自らの歪められた記憶といったシナリオに合わせてそんな風にも見え、ラストシーンは人格の統合のそれ、というふうにも見える。(というかディヴィットって名前の元ネタもおそらくリンチ。フランクザッパとデヴィットリンチの兄弟って嫌な兄弟過ぎる



 だがしかしそんなバラバラなシナリオを差し引いても、本作の通低音にある明確な一つの物語とはこれまで「ムーンライトシンドローム」から「シルバー事件」「blood+ one night kiss」までに描かれてきた、80年代の近代化以降生まれた平坦な日常から広くは社会・国家といったシステムの歪みによって、狂気と悪意に陥ったものとの対峙だ。


 この作品は「ファンタジーである」と言われているように、スラッシュアクションというジャンルに合わせた形で狂気と悪意に陥ったものをワイヤーズに象徴させ、これまで刑事という公職の立場などで描かれてきたその闇と対峙する主人公を国家機関の処刑人として象徴させる。そしてずっと狂気の暗喩として月に浮かび続けた月へと直接向かい、悪意に飲まれた自身の半身と正面から闘うという形になっている。


 記号化が凄まじいためにこれまでの須田作品よりも物語や状況全体へのプレイヤーとのインタラクションが弱いのは否定できないのだが、逆にスラッシュアクションだからこそこれまで闇の翻弄されるまでだった主人公たちの弱度を本作の主人公ザッパは超えた形になっているかに見える。「Killer is dead」は須田剛一作品の通史を改めて表現した作品であり、そして新英幸の構築したゲームメカニクスにより新・須田ゲーと言える領域に来たと思う。

 
 

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コメント

初めまして。
こちらのブログには、バイオショックインフィニットの考察サイトを探しているときに出会い、
それ以来、いつも楽しく、感心しきりに拝見させていただいてます。

「Killer is dead」の感想・考察がいつ更新されるかと、クリアした後で楽しみに待っていました。
やはりEAbase887さんの考察は面白く、ためになります。
私と同じ考えもあれば、初めて気づかされることも多く、読んでいると触れられたイベントシーンを見返したくなります。
知っておくべき作品や背景を知らずにプレイしている自分を恥じるばかりです。

さて、この記事の中で述べられている「ワイヤーズとは何者だったのか」について、
少々思うことがあったので、つたない妄想ですが、私の考えをコメントさせていただきます。

ワイヤーズは作中で説明されるように、テンプレ雑魚キャラであり、狂気と悪意に満ちた存在です。
ですが、概念としてではなく、この「Killer is dead」という作品の中での「ワイヤーズの役割」はなんだったのかを考えると、
ワイヤーズという存在は「操り人形・盤上の駒」だったのではないかと思うのです。

wire(ワイヤー)には「操り人形の糸」という意味があります。
雑魚ワイヤーズのデザインを見ると、線・コード・ラインといった装飾やカラーリングが多く、
ワイヤーズ化を促進させたマッセルバックもまた、機械的でもあり生物的でもあるコードで肩と繋がっています。
そして、ボスのワイヤーズたちはそのほとんどがデイヴィットに力を与えられ、彼の思惑通りに悪意を振りまきます。
例外として浜田山組長はデイヴィットを介さず、自らの境遇のみでワイヤーズ化したので、
虎というモロ生物オンリーなデザインになったのかな、と思います。

これらのことから、本来ワイヤーズとは、月(裏側限定?)の支配者がもつ「操り人形」であり、
悪意によって「支配されるもの」ではないかと考えます。
EP02の冒頭で、デイヴィットが「目を覚ませ」と語りかけるシーンの背景がチェス盤だったのは、
ザッパもまた、このゲーム(チェス)における「主人公」という名の操り人形(駒)のひとつ、という意味も込められているように思えます。

そう考えると、物語のラストでザッパがワイヤーズ化を止めるためにマッセルバックを文字通り切り離し、
左腕が治り、いかにもラスボス然とした風貌で佇んでいるのは、支配からの脱却を表しているのではないでしょうか。
「これはアクションゲーム」「プレイヤーから苦情が」「このゲームの倫理的に」「ラスボスだろ、お前」
など、これはゲームです。僕は主人公です。と繰り返してきたメタ発言は、最後にマッセルバックのコード=操り人形の糸を切り、
ザッパがプレイヤー・支配者の手を離れるという演出を効果的に見せるためだったのでは、と思います。
作品・世界の「支配者」の支配から脱却したザッパ。闇(狂気と悪意)を飲み込み、操る彼が次に処刑するのは「支配者」なのでしょうか。

元々の支配者はムーンリバー?EP09の壁画に描かれている対の神っぽいのはザッパご先祖とムーンリバーご先祖?
デイヴィットの「同じ血が流れている」→支配されるのではなく支配する側になれる?
世界・宇宙の支配者だったムーンリバーを蹴落とし、支配からの脱却を目指すデイヴィット&ザッパの「悪意と狂気が正義」の物語?

などなど、妄想は尽きませんが今でさえ支離滅裂なのでここまでに。
予想以上に長くなってしまいました。乱文長文申し訳ありませんでした。

>もすまんさん

おおお熱い考察ありがとうございます!第9話の壁画のこと忘れてました。
確認して見て辻褄あわせられそうなとこあったら記事に追加するかもしれません。

ワイヤーズの解釈、これは完全に抜けておりなぜこんな名前なんだ?と思っていたのですが
「人形」というのはかなり納得行くし、メタフィクションの視点ではワイヤーズ化していくモンドザッパはディヴィットの操り人形と言うだけでなく、ゲームシステムの操り人形とその脱却というのも
物凄くGHMの異化効果狙いに重なっていて面白いですね。


ただオレは本作で多かったメタフィクション発言の部分に関しては、
ここは飽くまで製作サイドの手法・傾向面に絞らせて書きますが、
やっぱ須田剛一自身にゲームメカニクス&デザイン構築へのプライオリティが無さ過ぎるゆえに、
ちょっと古いというか、今のゲーム構造を狙い打つメタは上手く言ってないと思います。ギャグとしても古い。

メタフィクションというやり方によってビデオゲームの構造提示し新たな視点を見せる、を先端でやってると見えるのは
個人的にはUBIです。「アサシンクリード」から「ウォッチドッグス」あたりは正当なゲームメカニクス&デザインを構築した上で、プレイヤーとゲーム間の関係やジャンルの構造を見せる仕掛けを行っているかに見えます。

 それで今回須田剛一はエグゼクティブディレクターの位置でシナリオを描き、新英幸がゲームメカニクス&デザインのディレクションを行ってるというわけで
良く言う「物語とゲームシステムの乖離感」というのはどうしても起きるもんなんですが
とくに今回シナリオ書く側とメカニクス構築する側が分かれ、さらにはGHM作品中でもスラッシュアクション的な基礎メカニクスからチャレンジの配置など過去に無くジャンルゲームらしい意匠であるゆえに
距離を置いた位置にいる須田剛一の過剰なメタはその対抗か?と感じてしまいました。


先ほどクリアしたのでその熱で書き込みさせて頂きます
いろんな人の考察をじっくり見たいけどまだ殆どそういった記事を見ない……
もう少し楽しみを待つしかないでしょうか

ワイヤーズ=操り人形
についてですが、デイヴィッドの「お前は所長に利用されている」といったような発言も
アメリカという国家のエージェントであるブライアンが、「ブラックホール」と化したデイヴィッドを
取り込むための「もう一つのブラックホール」としてモンドを利用していることに見えますし、
「ブライアンにつけられた左腕」というのも、モンドを操るためのワイヤーだったのではないか?と思わされます。
そのワイヤーをデイヴィッドが奪おうとし、モンドはその対立に気づかない。
気づかないながらも、そこから抗おうとしている。最後はその操り糸を断ち切り、月の王として君臨する
といった展開に見えました
そうなるとユニコーンは一体何者なのか……ユニコーン自身はモンドに仕えている節もありますし、
吸血鬼の際には「迷いの森」を抜けるために走ってくれます。
そうすると、ザッパの血に仕える月への移動手段であり仲介者だったのか?
地球の持ち主のカーネルサンダースといい、何かもっと別のサイドの存在なのでしょうか

と、クリア後の熱で浮かれた勝手な妄想を長々と書き込んで失礼致しました。
いつも新しい記事を楽しみに待たせて頂いてます。それでは

>フランクさん

ワイヤー=操り人形説にもう少し乗っかると
あれは国家に所属するブライアンの事務所サイドが
ザッパにワイヤーズの力を孕んだマッセルバック(確かこの設定どこかのインタビューで語ってたはず)を
左腕に取り付けたのでは?ということも示唆され、
アホの兄貴の洗脳と国家サイドの管理の可能性なんかを組み合わせて考えると
ザッパを通したブライアンとディヴィットの関係というのも立体的になって行く感じはありますね。

その仮定で見てればラストシーンは二重のワイヤーからの解放のようにも見えるし、
しかしディヴィット側の意図通りに進んでしまったようにも見える。
エントリ中に書き切れなかったのですが、
このラストは「ツインピークス」の最後、精神や無意識の裏側であるブラックロッジに入った
クーパー刑事が狂気の象徴に取りつかれ、鏡の前で笑うシーンをも思い起こさせると感じておりました・笑

はじめまして、killer is deadの難解ストーリーのモヤモヤ感を少しでも解消したくてたどり着いた者です。
こちらの文章でなるほどと思う事が沢山書かれていて、モヤモヤが少し晴れました、
作られた須田さん自身、あやふやな設定感をかんじますが・・ ユニコーンのタケルでしたっけ
あと気づいた事が、初めて月に行き、デイヴィッドの屋敷に絵がありましたよね、デイヴィッドが女性を抱いてる肖像画、あの女性はヴィヴィアンだと思うのですどうでしょうか?同僚に手を出してクビになったとか?
ゲームの記事すごく興味深い話しばかりでですね。

>はるさん

いやーほんとテキスト量が少ないために
ベヨネッタでも世界観補完の資料がアイテムで取得できるってのに
物語的にグチャグチャのまま、
クリエイティビティを突っ走らせてる感じでした。
インタビュー関連の方に初期コンセプトかなり語ってたんすよね。

ビデオゲームで出来る物語や表現専門ブログなんで
興味を持たれたら他の作品レビューもよろしくってことで
余談ながらディヴィッドのあれは
僕は単なる見栄かとみてました・笑

全身にそれが×
全身がそれに○

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