SFとノワール、そしてアドベンチャーゲームの三つのジャンルが交錯する時、世界と存在が見立てられる:「GEMINI RUE」感想と考察・
SFとノワール(ハードボイルド)というこの二つのジャンル、それは掘り下げて行くと物語の本質として似通うポイントが存在し、近年ではその混ざり合うポイントを意識的に表現にした派生ジャンルとして「ネオ・ノワール」や「サイファイ・ノワール」なんてカテゴライズされる作品が出て来ている。
今回の「GEMINI RUE」というのは決して豪華でも膨大なボリュームのあるものではないし、「LAノワール」だとか「ヘビーレイン」に比べれはB級映画の世界だ。だが、まさにハードボイルドとSFの密接に混ざり合うポイントによって表現された作品なのである。だがしかし、それは単なる二つのジャンルの薄っぺらな表層だけを手触りとして繋ぎ合わせただけではなく、このジャンルの奥底にある、コアのところに触れた出来なのだ。
さらにいうならば第三の視座にアドベンチャーということさえ含めればそのコアの部分というのはより明確にプレイヤーに提示されるのだ。
ということで本作の感想と考察を交えながらのSF・ノワール・アドベンチャー三つの視座がクロスした先にある、物語の核についての話。
いちジャンルであるノワール(ハードボイルド)もSFも、基本的にはとある街のマフィアの犯や事件を追う刑事や探偵というものや、とあるテーマによる架空の未来やテクノロジーを舞台にした世界を描くエンターテインメントの形式だ。だがもう一つ押し進めた作品を見れば両ジャンルが描く物語の流れには、主人公である探偵や刑事が自分の生きる街、架空の未来の置かれた世界観やルールの現実を知っていくことに加え、そしてその世界の中での自身の位置、そして存在を確認していく、という部分で共通していく部分がある。たとえばフィリップ・K。ディックの古典的名作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などがそうしたジャンル間の物語性の結合を見せている。
さらにそこに「プレイヤーが探索する」という行為がゲームメカニズムを為しているジャンル・アドベンチャーが加わることによってそれがより明確になる。このゲームジャンル上、探偵や刑事を主人公とするハードボイルドや、「何度も繰り返し複数の物語のルートを見る」という性質を逆転しタイムループや並行世界を探索するSFなどが選ばれ、優れたADVはそうした物語の核を突き、プレイヤーに強烈な世界と立ち位置を確認させる物語へのインタラクションを実現しているものだ。そして「GEMINI RUE」もそれにつらなるADVと言えるのだ。
さて「GEMINI RUE」の舞台は23世紀の惑星ジェミニにて、二人の兄弟を主人公としたアドベンチャーだ。かつてその星は「Gemini war」と呼ばれる植民地間の戦争によって荒廃していたのだが、その後ジェミニ・システムが構築されることにより平和を取り戻していた。しかし今だ荒廃の影は潜んでおり、街角の店員も前の戦争の話をするし、ジェミニ・システムの一部を使い、麻薬「Juice」を取引して捌く犯罪組織Boryokudan(これはまんまローマ字読みで)が街で跋扈している。
このように典型的なSF的な世界の背景と、ノワール的な犯罪組織という背景の二つが混ざり合っており、そして交互に操作することになる主人公たる二人の兄弟それぞれが典型的なジャンルを象徴するパートとなっている。
ロングコートを纏った極めてハードボイルドらしい、タフな印象を見せる兄・アズリエル・オーディンは消えた弟ダニエルを探すために、その居場所を知っていると見るマサイアスと接触しようとする。しかし展開の中でboryokudanと関わることとなり、弟の情報と引き換えに失われた麻薬を探すことになってしまう。紫色の雲に覆われ、常に雨の降りしきる街の中を犯罪組織と関わりながら大切な人間を探すために非常にフィルム・ノワール的な場所を歩くのである。
対称的に弟は虚弱な印象の姿だ。暗闇の中で目を覚ました先には全く分からない研究所なのか、または監獄なのかわからない場所であり、そして自身は記憶を失っている。「ディレクター」と名乗るスピーカーの声からは「デルタ・6」と呼ばれ、それに導かれるまま銃撃戦の訓練を受けることになる。訓練の後にはどうやら自分の過去を知っているらしい女に出くわし、彼女からはチャーリーという名前で呼ばれることになる。このように管理社会・閉鎖環境を描くSF的な空間の中、自身の記憶はなんなのか、この場所の目的は何かを探ることになる。
このように二人の兄弟はそれぞれ典型的なノワールとSFのジャンルを舞台としたパートが交互に切り替わりながら進む、画面を見れば分かるようにルーカスアーツやシエラ・オンラインのような伝統的ポイント&クリックアドベンチャーの構成を取っている。
あまりこのジャンルに慣れてないとヒントに気付きにくかったり、理解しにくかったりすることやこの手の難度上昇の定番らしい、重要ポイントをごく小さくするなどに戸惑うことはあるが、ここは往年のそれのような膨大なボリュームや複雑過ぎるパズルの連続ではないくらい。そのかわりエッセンスとして簡単なカバーアクションによる銃撃戦が用意されている。
ただこうした複数主人公にはつきもののの本作のパズル構造で兄弟の一方の行動がもう一方に影響を与える、という仕掛けはないので、途中自由に兄弟をのパートを切り替えられる仕様があるのだがあまり効果を出しきれていない、という点はややADVのゲームメカニクスの面白さが抜けている。
しかし本作が真に強いインタラクションをもたらすのは冒頭に書いたように、3つのジャンルが最後に交錯し、ジャンルを超えた物語の核を見せることだ。フィルム・ノワールの兄は弟を探すと共に街と、このジェミニ・ウォー後の時代の環境を知って行く。管理社会SFの弟は自らの記憶を探すと共に、拳銃の扱いを覚え、仲間たちを接触することで認識する世界を広げようとしていく。そしてそれらをアドベンチャーというジャンルにて探索するプレイヤーの3つが結末にて出会った時、世界の実情とその中での兄弟二人の立ち位置、存在の全てを主人公とプレイヤーは確認するのである。
ジャンルを超えたあらゆる(一人称的な、主観的なタイプの)物語の核とはここであり、主人公そしてプレイヤーは探索の中で自分の認識・知覚する世界というものからロジカルに出来あがっている世界の構造を知っていき、そしてその中を生きる自己の、記憶や過去と言ったアイデンティティの問題に最終的に関わることだ。本作は3つのジャンルが交錯し切った中で根源的なそれを提示しているのである。
そして暗示的なのは、結末で全てを知った主人公たちが取った行動だ。世界を、存在を見立てなおした彼らが下した結論は、自身の存在を確定させるのにそれが本当に必要なのか?戻るべき世界に生きることが確定に繋がるのではないか?という様々な示唆を含み、エンディングを迎える。
GEMINI RUEはios版をプレイしました。steam・GOGでリリース。
現在のところ英語版のみ。:英語の難易度・ボイスに合わせたテキスト表示タイプ。だからこちらが読み終えてからクリックして次のセリフではないので、ある程度速読出来てないと分からないまま次々に会話が進んでしまい厄介な所がある。だが会話が基本なので難解な表現はそこまで使われないため、基礎的な英語の素養があれば慣れる。
おまけ・ 隠しキャラになんと日本のアニメ「カウボーイ・ビバップ」のキャラが!作者がファンらしい。(こういう日本シンパな所がBoryokudanというのに繋がったのか・笑)
(追記・はてなブックマークにてこちらの間違いに関しての指摘があり、修正させていただきました。が、なんと忠告を頂いた方はもっと早く本作高い評価をされていた「Staygold,Ponyboy」 様からで、本作Gemini Rueを知って実際にゲームプレイする以前に拝見したレビューは大変参考になりました。コメントありがとうございます。)
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