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2013年7月13日 (土)

知られざる「ムーンライトシンドローム」続編「BLOOD+ One night kiss」感想&考察 凍結した日本郊外の光景: 「killer is dead」キラーイズデッド発売直前レトロスペクティブⅡ

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 「killer7」以降のグラスホッパー・マニファクチュア(以下GHM)須田剛一作品はそのゲームデザイン順序が逆転し、まずジャンルに沿った操作・ルール設定・成長曲線や蓄積&収集といったゲームメカニクスから先に構築し、そこから感情移入先としてキャラや世界設定、シナリオを乗せるというゲームクリエイションの正道になる。「ノーモアヒーローズ」よりアドベンチャーゲームでなく、「デビルメイクライ」のようなスラッシュアクション主体へと転換していく。

 しかし「ノーモアヒーローズ」で一つの完成に至るまでは、当時のインタビューなどからうかがい知れる恐ろしいまでの世間に流通しているゲームメカニクス構築のプライオリティの無さや技術蓄積の無さを見るに、そこに至るまでにはやはりスラッシュアクションの技術蓄積の期間としての作品が制作されていた。それがバンダイナムコゲームズよりリリースされた「サムライチャンプルー」と今回取り上げる「BLOOD+One night kiss」の2作であり、アニメのゲーム化ながらGHMの制作スタンスが裏返っていく過程そのものだからかアクションのゲームメカニクスをぎこちなく作り上げようとする妙味がさく裂している。


 特に「killer7」のグラフィックを引き継いだ「BLOOD+One night kiss」がオレにはもっともスタンスの裏返る中間あたりにある出来だと見え、正直グラスホッパーのアクションとアドベンチャーのミックスされたもので一番好きなんだけどネット見てて評価してるのはほぼ誰もいなかった(苦笑)。しかし今見直せば、実のところ本作はあの作品の続編でもあり、さらにはこれからリリースされる「killer is dead」にも繋がる要素が見られる後の作品を予見する部分が多々ある、過去と未来のGHM作品に意外に接触してる作品なのではないだろうか?

●プロダクションI.G「BLOOD+」への脱構築いやいや嫌がらせ的なGHMの新エピソードとキャラクター、声優チョイス

 原作はプロダクションI.Gによる2005-2006年に土曜6時に放映していたアニメ「BLOOD+」という、2000年入った時に作られた少女・クリ―チャー・日本刀というガジェットによる「BLOOD LAST VAMPIRE」の世界観を引き継いでテレビアニメにしたものという。

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 初代が「神宮寺三郎」のデザインでも有名なストロングスタイルイラストレーター寺田克也によるデザインであり、少女という日本アニメ王道のガジェットなのにどうもタフなアフリカ黒人女性を参考にしたと思われる唇や頬という顔立ちで敵を容赦なく切り殺すという繊細さやその裏打ちとしてのセクシャルが欠片も感じられないという、押井守作品を数多く作るI.Gらしいポルノに寄ったガジェットを使いながらポルノを蔑視してる技術論に振り切った作品だったのに対して、テレビアニメ化された「BLOOD+」は以下のキャラクターデザインを見れば分かるが異様にさやわか。

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 マス向けということで少女・小夜の剣劇冒険アニメってことで当初のコンセプトから大きくライトにしてあり何か意味ありげな沖縄米軍基地の街から飛び出して世界を回るその周りを香水の匂い漂うかのようなイケメンが取り巻くなんて話となっている。

 

 ところがGHMによるゲーム版はそんなキャラクターデザインのピラミッドを一気に潰しにかかるかのようなオリジナルキャラクターと舞台を投入しながら、 「BLOOD+」の傾向である「真に汚いものは描かれないし示唆さえしない」というデオドラントされた世界や小夜中心の物事に対してのカウンターのような脚本や演出を見せることになる。

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 本作のオリジナルキャラクターにして主人公・青山轟。「ワンナイト」でリーゼントでグラサン。氣志團かっ!

 腐女子エクスプロイテーションな原作のハジをはじめとするキャラクターメイキングに対してGHMサイドが投入してくるのはリーゼント・ミニスカポリス・作業員・ホームレス・オッサン・オッサン・オッサンと客を陶酔させる気配はどこにもない。


 そのうえ声優として採用されているのまで陶酔とはいささか異なる舞台・演劇出身の人間を採用させている。リーゼント青山役の劇団新感線橋本じゅんはじめ大人計画皆川猿時、 須田剛一がこのドラマのファンってことで選んだだろう「相棒」のレギュラー俳優である伊丹刑事役の劇団ショーマ所属・川原和久や角田六郎役の劇団そとばこまち出身山西 惇などなどがキャスティングされる。俳優起用とはいっても顔の良さで売り出されるモデル出身などの若手俳優とは全く別に劇団出身の人間はその土壌ゆえにその発声の演技の技術や意識は備わっており、こうしたアニメ・ゲーム声優であってもその技術の互換を利かせているところを聴くことができる。(ちょっとウィキペディアなどで調べてみればすぐにわかるがほとんどの押し売りされる若手俳優たちには演技におけるバックグラウンドとしてのそれが無いのだ)

 そうした「BLOOD+」にかこつけたGHMの現代劇演出で描かれる舞台とは、日本の新興住宅街や団地という平坦な場で生まれる破綻と狂気だ。それはかの1997年にヒューマンでリリースされたあの「ムーンライトシンドローム」の精神的な続編でもあるのだ。

●あの「ムーンライトシンドローム」の続きと示唆され、そして描かれる実のところめったに出くわすことのない日本の光景

 本作はエリア移動する際にボールやライトなどの円形の物にカメラがクローズアップしていき、そこから満月が映し出されるモンタージュの手法を取っているのだが、そのクローズアップされる物の一つに月を映しだしたポスターがあり、そのキャプションに「moon light Syndrome 2」と小さく書かれているのが分かる。本作は主観視点になれないのでちょっとでしか確認できないんだけど、さりげなく示唆するあたりそうした意識で作られた作品なのは確かだ。


 「ムーンライトシンドローム」の舞台とは近代化されていく日本の光景の気配というのが大きなモチーフとなっている。主な舞台は新校舎であり、立ち並ぶマンション、そして団地という平坦さの際立つコミュニティで起きる事件だったが、まだその当時の時点だとその平坦さの表現というのにムラがあったのに対し、フル3Dで描かれるようになった本作のニュータウンの光景というのは遂にそうした平坦さと、予見される狂気と破綻の気配を作り上げることに成功しているのだ。

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         ホンマタカシの撮る平坦な集合住宅の写真

 それは写真家・ホンマタカシが日本のニュータウンや集合住宅という場に漂う奇妙さ・座りの悪さといった気配を写真にしていたのに近い空気をビデオゲーム上で実現している。小夜のパートで表現される夕暮れの校舎、真夜中の団地、人がどこにもいない街並みの中を、高田雅史によるピアノ曲が彩るこれはめったに見ることのない憂鬱さと美しさが入り混じった光景だ。その中で企業が実質的に支配し発展してきた街の中で狂気に陥る人々の独白そして闘いという、平坦な戦場が展開されていく。

 さらにGHMがこれまでにやってきたストーリーテリングの構造はここでも全開にしている。小夜と青山はこのニュータウンの背後にいるクリ―チャー翼手と戦いながら事件の真相を探る、という二人の主人公によるマルチサイトによるシナリオ進行という「シルバー事件」の構図で片方の事件の真相を片方が解説する形や、「ムーンライトシンドローム」のリョウとミカ、「花と太陽と雨と」のスミオとトリコのように主人公の男と女は決して結末まで出会うことはないし、あるいは最後まですれちがい会話を交わすことさえない。小夜と青山は決して会話することが無く、最後の最後まで二人は出会うことはない。

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●後の「キラーイズデッド」にまで繋がるGHMゲームへの予見的な要素



 というわけで過去のGHM作品のストーリーテリングやテーマ、男と少女は決して出会うことはないという関係などに加え、本作はこれ以後のGHM作品に出てくる要素も予見するかように含んでいる。


 
 グラサンでリーゼントでショットガンをブチ撒ける公安の青山轟は一人ごっつの面雀で決めたみたいなキャラデザインは後の「ノーモアヒーローズ」のグラサンで萌えアニメオタクの殺し屋というやっぱ面雀的なキャラデザイン、そして彼女を失った憤りによって動くというトラヴィスのようだし、まんまミニスカポリスの格好の交通課の桃山との会話や関係なんてシルヴィアとのやりとりそのまんまだったりする。


 しかし今もっと予見的なのは「killer is dead」のいくつかの要素を先行しているかに見えることである。本作の小夜による剣劇アクションでの、敵を斬って血を溜めていくことでバーストさせて一気に切り刻み、部位を切り捨てることで変わっていく戦闘の展開などなどのデザインは「killer is dead」のドッジバーストやアドレナリンバースト的であり、プレイ動画を見る限り分かるボス戦で相手の体力を削りきったところでアドレナリンバーストで切り落として次の展開へと移行する戦闘などなど・・・ってこれは他のプラチナゲームスのスラッシュアクションでも実現していることなんだけども。



 偶発的な繋がりを勝手に感じたのは本作に出てくる、川原和久演じる警部補・厚木稔というキャラクターだ。かなりのところ「相棒」の伊丹刑事のあて書きのようなコンプレックスまみれのキャラデザインであるが、「本性は左半身に現れる」といい、後半にその言葉通り左半身を翼手化し狂気に囚われたまま青山と対峙する。

 「killer is dead」の主人公モンド・ザッパもまたアドレナリンバーストを放つときなど感情や能力を全開にしている際に左半身を斬り殺してきた敵であるワイヤーズのように変質させており、その記憶喪失の裏の正体とは?の謎を残す。その内実は発売されてクリアしてみないことには何ともわからないんだけど、青山対厚木の闘いのシーンはある意味仮想トラヴィス対モンド・ザッパのようにも見え、そしてその闘いでは「BLOOD+One night kiss」中もっとも満月が不気味に浮かび上がるのである。

 というわけで締めは、本作が2週目に入ったときに現れる難易度が高く、結末に変更があるモード名の元ネタ、New Order「parfect kiss」「killer is dead」もまた80年代のスミスやジョイ・ディヴィジョンらの名前は出てくるのだろうか?

 

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